「凛(りん)〜!」



遠くから誰かが私を呼ぶ声が聞こえ、廊下を歩く足を止めて振り返る。



「……世莉(せり)?」



廊下の奥でピョンピョンと跳ねながら走ってくる、興奮気味のクラスメイト、世莉を見て思わず身構える。


すごい勢いで迫って来る世莉は、私の目の前まで距離を縮めると両肩を強く掴む。

そしてその勢いのまま、これ以上にないくらい大きく口を広げた。



「昨日の放課後、裕介くんに告白されたよ!」

「えっ、えぇ!?やったじゃん!」

「ありがとう〜!凛のおかげだよ!!」



世莉は嬉しそうに飛び跳ね、しがみつくように私を抱きしめると、私ごと廊下のど真ん中でクルクルと回る。



「凛に頼んでよかった!本当にありがとう!」

「何言ってんの、世莉が一生懸命アプローチしたからだよ」

「それでも凛がいなかったら、私なんて裕介くんの眼中にも入らなかった!嬉しい!本当にありがとう!」



世莉の興奮はまだ完全に目が覚めていない眠い朝には不釣り合いで、廊下を歩く生徒が何事かと怪訝な目で見てくる。


だけど、そんなことはお構い無しで世莉は何度も私に感謝を伝えてくる。



「さすが"恋のキューピット"!凛はうちら恋する女子の救世主だよ!」