「もしかして、だし巻き玉子?」
「うん」
「珍しいね」
「うん、もういいかなって思って」
「え?」
フライパンの端で形を整えながら、残りの卵を豪快にフライパンに流し入れる。
ジュウと音を立て、火が通っていく卵を見つめながら、久しぶりに「お父さん」と口にした。
「お父さんの作るだし巻き玉子は本当に美味しかったよね、形は歪だったけど」
「……凛は、お父さんに会いたい?」
共働きだった両親。
お互い仕事が好きで、どっちも辞めたくなくて、なんとか助け合いながら家事をこなしていたけど、少しずつ互いへの不満が募り、僅かな気持ちのすれ違いはやがて深い溝を生んだ。
毎日のように喧嘩をするようになり、どちらからともなく離婚を切り出した。
私の気持ちなんて1度も聞かずに、永遠に続いていくと思っていた家族はあっという間に崩れてしまった。
その日から、私は飢えてしまった。幸せに。


