もう一度、君に恋する方法


 旅行コースは、観光地と言われる場所をベースに、現地のおいしいものの食べ歩きや、散策を計画していた。
 それを踏まえて、動きやすい格好を選んだ。
 私はひざ丈のベージュのパンツに、スニーカー。それでもせっかくの二人での初旅行だし、トップスぐらいはかわいいものをと、ささやかなレースをあしらった服にした。
 この日のためにすべて新しいものをそろえた。服も靴も、下着も。
 初めての二人での旅行は楽しみすぎて、俄然気合が入った。
 だけどその気合は、体の重さと頭痛の前でことごとく朽ち果てていた。

 電車に飛び乗ったころには、浩介が徹夜で考えてくれた旅行計画のいくつかが、すでに遂行されずに終わっていた。
 交通費は節約したいから在来線で行こうと私が言ったのに、新幹線を使うことにした。

「ちょっと豪華になっちゃったね」

 汗をだらだらと流す浩介は、私の分の荷物も持ちながら困ったような笑顔でそう言った。

 新幹線の自由席は、平日の朝だからか空いていた。世の中は学校や仕事をしている時間なのだから、当然かもしれない。
 新幹線の中で、浩介はあらゆる交通機関の時刻表を調べ、コースを組み直していた。時々、「どうかな?」と私に意見を求めるけど、頭は働かず、返事をすることさえ億劫で、いつの間にか私たちの会話は途切れていた。

 新幹線のわずかな揺れやカーブの傾きが、気分を悪くさせた。ゴーと鳴り響く音が、頭をズドンズドンと叩く。座席の柔らかささえも、何だか落ち着かない。

「早矢香、大丈夫?」

 その声で、いつの間にかぐっと目をつぶっていたことに気づいた。目を開けると、浩介が心配そうな顔で私の顔をのぞき込んでいる。

「気分、悪い?」
「ううん。大丈夫。……ちょっと、トイレ……」

 立ち上がると、ほんの少しの揺れで足元がふらついた。それと共に吐き気が来た。なんとか持ち直そうとすると、めまいが
襲って、頭の中の血が一気にさあっと引いていく。

「大丈夫? ついていこうか?」
「ううん、大丈夫」

 浩介立ち上がろうとするのを制して、私はふらふらしながらトイレに向かった。

 ようやくトイレにたどり着いたけど、新幹線のトイレの中は、座席にいるときよりも騒音が一層低くゴーゴー鳴って、それだけで頭がぎゅうっと締め付けられた。しかも揺れる車内のトイレは足元も不安定で、いつまでもふらつく。

__頭痛い……。気持ち悪い……。

 慣れない環境でのトイレで、ようやく下着を下ろせた。その直後、「あ……」という言葉を漏らしたきり、私はその場で固まった。