「キャー!」

 その時、下から誰かに抱き止められた。スローモーションのように山茶花の桃色の花びらが何枚も何枚も散り宙を舞っている。

 花びらの先に見えたのは、、、、 
 
  茅渟王(ちぬおう)だ。

 ドサッ、私は勢いよくそのまま地面に落ちた。

 「イタタ…だ、大王様大丈夫ですか⁉︎」

 下敷きになっている大王に向けて叫んだ。

 「私の方が痛いぞ」

 大王が苦しそうな声で答えた。

 「大王様。申し訳ありません!お怪我はありませんか⁉︎」

 私は慌てて起き上がり言った。

 「大丈夫だ。なれど燈花(とうか)や、そなた見かけによらず重いのだな」

 大王は起き上がると腰をさすりながら私を見て笑った。
 こんな時に不謹慎だと思ったが、まじかで見る大王の笑顔が妙にキラキラしていて少しだけ胸が高鳴った。

 「も、申し訳ありません、、」

 顔から火が出るほど恥ずかしかったが、なにせ相手は大王だ、必死で謝った。

 「冗談だよ」

 大王は笑って私を見たあと、私の胸のあたりをじっと見た。視線の先には翡翠の指輪がキラキラと光り揺れている。


   (その指輪は…昨日の…まさか…)

 大王は心の中でそう思った。

 
 私は大王の視線に気づくと慌てて指輪を胸の中にしまった。何故見ていたのかもわからなかったが彼はこの指輪を知らないはずだし、この時は気のせいだろうとだけ思った。

 

 (何故、山代王の指輪をそなたが持っているのだ?…いや、市場にも似たような指輪はあるだろうし、私の見間違いやも…)

 大王は目をつむり頭を横に振った。



 「あっ、大変!大王様、足から血が出ています!」



 「ん?ただのかすり傷だ、気にとめずとも良い」

 大王は軽く答えたが、結構出血している。持っていた手巾を取り出し傷口をギュッと押さえた。

 
 (橘の刺繍の手巾?…指輪が包んであったあの手巾だ、間違いない。やはり、そなたがあの時の侍女であったのか…)
 
 大王の心の中は喜びで満たされていた。
 

 

 大王は何故か手当てをしている私を黙ったままじっと見つめている。なんだかおかしな空気で気まずかった。

 
 少し離れた所でこの様子を王妃と山代王が見ていた事にも全く気が付かなかった。