幸運にもこの夢は早々に叶い、その年の秋、姉や姪っ子達と共に旅行がてら推古天皇陵墓を訪れる事になった。なんだか異国にでも行くようで、どきどきと胸が高鳴った。

 大阪駅でレンタカーを借りると真っ先に推古天皇陵墓を目指す。しばらく車を走らせるとあたりは美しい田園風景へと変わった。雲一つない秋晴れだ。空はどこまでも高く青く澄み渡っている。

 姪っ子達は外の景色をチラッと見たものの、興味がないのかすぐに持ってきたゲームに夢中になった。彼女達がさすがにゲームに飽き始めた時、水田の中にぽつんと墓陵らしきものが見えた。

 運良く、通りすがりの地元の人を見つけたので、念のため尋ねると推古天皇陵墓で間違いないらしい。すぐにそばの畑のあぜ道に車を止めた。

 「やっと着いた~」

 姉は車から降りると、う~んと背伸びをした。ちょうど秋の収穫の時期と重なり、田畑の稲穂は重い頭を下げ、波のように風にうたれている。

 その光景が金色の波のようでとても美しかった。水路には沢山の蛙が一列に並んでいて通りすぎる私達を興味深くじぃーっと見ている。

 やっと来られた…そう、ここよ…あの石階段…

 早歩きでその小さな石階段へと向かった。石階段を登り終え後ろを振り返ると眼下には美しい段々畑が広がり、その奥には連なる美しい山々が見えた。

      ここで間違いない

 あの日はっきりと、夢の中で見た景色を思い出していた。振り返ると姉と姪っ子達は道路の傍にある水路を覗きこみ蛙探しに夢中になっている。私はもう一度正面を向き手を合わせ心の中で挨拶をした。

 橘燈花(たちばなとうか)と申します。ご縁を感じこの度は遠方よりやって参りました。推古天皇にご挨拶を申し上げます…

 深く頭を下げた瞬間、急に風がビューと強く吹き、すぐにビリビリビリという雷のような大きな音が遠くに聞こえた。驚いた私は振り向きざまによろけ足を踏み外し階段下まで勢いよくゴロゴロと転がり落ちた。

 「燈花(とうか)大丈夫⁉︎しっかりして‼︎」

 姉の叫び声が何度も聞こえるが、体はぴくりとも動かないし、頭は朦朧としている。どこからか飛んできたのかわからないが、何枚もの鮮やかな黄色のイチョウの葉が、くるくる、くるくると青空の中を舞うのが見えた。

    随分とゆっくり舞うのね…

 目の前がぼやけ、ほどなくして意識を失った。