夕方の微かな陽が顔にあたり目を覚ました。随分と長い間寝た気がする。

 「小彩(こさ)小彩(こさ)…いる?」

 「燈花(とうか)様?お気づきになられましたか⁉︎」

 小彩(こさ)はすぐ側の寝台で横たわっていたが、すくっと起き上がり私を見た。

 「うーん、喉が渇いて…お水が欲しいのだけど、持ってきてくれる?」

 「はい、直ぐにお持ちします」

 水をもらうと一気に飲み干した。

 「美味しかった、、。生き返ったわ。ありがとう」

 喉がカラカラだったので格別に美味しく感じた。

 「燈花(とうか)様、心配いたしました~」

 小彩(こさ)が泣き声で言った。

 「まる二日間高熱にうなされていたのですよ!もう3日目の夕方にございます。医官によると旅の過労が原因のようです」

 「三日…そんなに眠っていたのね…いつもあなたには迷惑ばかりかけてしまって申し訳ないわ」

 小彩の顔をまじまじとみると目は真っ赤に腫れ上がり頬はやつれ、目の下も真っ黒だ。完全に疲れ切っている。本当に申し訳ないと心から思った。

 「燈花(とうか)様、迷惑だなんて思ったことはありません!あっ、あと大王さまと、山代王さまも大変ご心配されております」

 「だ、大王様が…?大王様こそ、無事ご回復された??」

      はっ…しまった

 「えっ⁈何故燈花(とうか)さま、大王様の事をご存知なのですか?…ま、ま、まさか、大王様をお救いした侍女って…と、燈花(とうか)様ですか⁉︎」

 小彩(こさ)はハァッと言って息をのみ両手を胸にあてた。

 「シィーッ!!声が大きいわよ」

 慌てて言ったが、こうなるかもとは事前に予想できていた。まだまだ病み上がりで頭はぼーっとするが、何としても今すぐに小彩(こさ)にだけは釈明したいと思った。

 「これには事情があるのよ、今、私だとわかったら即処刑よ。お願いだから絶対に黙っていて」

 「も、もちろんでございます。詳しい内容は存じませんが、その侍女を王様がどうやら内密に探しているそうです。私は山代王さまより尋ねられこの話を聞きましたが、絶対に口外しないようにと、きつく仰せつかっております。燈花(とうか)さまの事も尋ねられましたが、この土地に到着してすぐに高熱を出し伏せてしまいましたので、部屋からは一歩も出ていないと申し上げました」

 「小彩、賢明な答えだわ。良かった…」

 大きく深呼吸し胸を撫で下ろした。そしてあの夜の出来事を全て小彩(こさ)に話した。

 「く、く、口づけですか⁉︎」

  やっぱり・・・そうなるわね…。

 小彩(こさ)は両手で唇を押え息が止まったかのように微塵も動かない。そして瞬きもせず私を見つめている。まぁ、、それはそうなのだけど・・。

 「とっさにそうしてしまったのよ、仕方なかったのよ」

 「でも、人口呼吸などという言葉は一度も聞いた事がありませんし、そのような方法を考えたこともございません」

 小彩が目を見開きながらきっぱりと言った。

 「そうなのだけど、私が育った東国にはこの蘇生方法があり、根拠のある応急措置なのよ」

 まぁ、現代での話しだけど…

 「理解に苦しみますがひとまずわかりました…でも燈花(とうか)さま、不思議と事態はその逆に進んでいるようなのです…」

 「逆ってどういうこと?」

 「実は、大王さまはその侍女を命の恩人だと仰せになっていて、褒美も沢山用意するそうです。そして定かではありませんが…その侍女を…そ、側室に迎えるとも…」

 小彩(こさ)は少しためらいがちに小さな声で言った。

 「そ、側室⁉︎嘘でしょ⁉︎ダメよ絶対に黙っていて頂戴、お願い!」

 思わぬ展開にさすがの私も動揺した。両手を合わせてお願いのポーズを必死に小彩(こさ)にしたくらいだ。

 「でも燈花(とうか)さま、無礼を承知で申し上げても良いですか?」

 「な、何⁉︎」

 「燈花(とうか)さまはきっと、その…私よりもいくつかは年上ですよね??その…もしもお慕いしている方が東国に居ないのであれば、その…大王様の側室に選ばれるなんて、千載一遇の好機だと思うのです。この国の女にとってこれほどの幸せな事がありますでしょうか?」

     ・・・・う~ん。。

 「確かに、そうかもしれないけど私この時代の人間ではない…」


   あーもう!またやってしまった!


 思わず口を押えた。小彩(こさ)にさえも絶対にばれてはいけない事実だ。

 「この時代とは?」

 小彩(こさ)が不思議そうに聞き返してきた。コホンと咳払いを一つして、冷静に言った。

 「とにかく、今回の件は絶対に黙っていてお願い。山代王さもにもよ」

 小彩(こさ)は訳がわからないという様子で少し困惑気味な表情をしたが、静かに頷き言った。

 「はい、私は一番に燈花(とうか)さまにお仕えする身です。燈花(とうか)さまの命であれば、もちろん従うまででございます」

 「ありがとう、安心したわ」

 「とにかく、燈花(とうか)さまの意識が戻ったことを山代王さまにお伝えに行ってまいります。大変心配されて一日に何度も様子を見にいらしていたのですよ、元気な燈花(とうか)さまを見たらたいそうお喜びになられます」

 そう言うと小彩(こさ)はニコッとして部屋から出ていった。