なんて事になってしまったのだろう。山代王様のお陰で助かったけど、彼に大変な迷惑をかけてしまった。心底間抜けな自分が情けない…

 でも何故山代王様は、私達の居場所がわかったのだろうか?一見華奢な体に見えるが、どこからその力を出せるのだろうか?…

 チラチラと彼の顔を見上げながらそんな事を考えている間に、馬までたどり着いた。馬の側には昨日会った山代王側近の冬韻(とういん)と別の中年の男も一緒に立って待っていた。

 「若様、無事二人を見つけだされたのですね、安心しました」

 中年の男がため息をつき言った。

 「二人を屋敷まで送ってゆく」

 「承知しました」

 今度は冬韻(とういん)が私と小彩(こさ)をひょいっと持ち上げると馬の背に乗せた。

 見上げた空はさらに暗くなり今にも雨が降りだしそうだ。遠くでゴロゴロと雷のなる音も聞こえはじめた。それでもなんとか雨が降り出す前に橘宮(たちばなのみや)に辿り着く事ができた。

 「山代王様、本当に助かりました。命の恩人です。何と言ってお礼をすれば良いかわかりません、このご恩は必ずお返しいたします」

 私は感謝の気持ちを伝え静かに頭を下げた。

 「気にせずともよい。二人とも無事で良かった。それよりも早く部屋に戻り傷の手当てをした方がいい」

 「誠に申し訳ありません」

 私はもう一度謝ったものの、申し訳ない気持ちとこんな騒動を引き起こしてしまった自分が情けなくて落ち込んでいた。

 「酔い潰れた皆の為に葛花を採りに行ったと聞いた、気を使わせてしまったな」

 「いえ、そんな…」

 「ではそなたの作る葛花の煎じ薬を待っていよう」

 「はい、出来次第すぐにお屋敷にお届けします」

 「では、またな」

山代王が馬にさっとまたがった。

 「えっ?もう、戻られるのですか?熱いお茶をご用意いたしますので、少しお休みになられたら…」

 小彩(こさ)が慌てて引き留めた。

 「いや、軽皇子(かるのみこ)の具合が良くないのだ。見舞いにいくゆえこれで失礼する」

 「お待ち下さい!軽皇子(かるのみこ)様はどのようなご状態なのですか?」

 何も出来ないと知りつつも、思わず余計な口をきいてしまった。

 「風邪をこじらせてしまったのかもしれません、先ほどの山で葛根もいくつか採ってきましたので医官様にお渡し下さい。少しは役立つかもしれません。小彩(こさ)お渡しして」

 「はい、よいしょっと、、」

 小彩(こさ)が布袋の中から葛根を取り出し冬韻(とういん)に渡した。

 「すまぬな、きっと役に立つであろう」

 山代王が優しく答えた。

 「あれっ、燈花(とうか)様、髪飾りはどうされましたか?」

 小彩(こさ)が急に私を見つめ言った。

 「え?」

 髪を触るとさっきまでつけていた髪飾りがない。

 「やだ、どうしよう、落としたのかしら…山に戻らなくては…」

 山代王の前なのをすっかり忘れて動揺してしまった。さっき大事なものだと話していたばかりなのに…

 「燈花(とうか)、落ち着くのだ、いったいどうしたのだ?」

 「あぁ、それが、髪飾りをなくしてしまったようです…でも心配いりません、もう一度山に行き探してまいります。落としたであろう場所はなんとなく想像がつきますので、大丈夫でございます。山代王様は軽皇子(かるのみこ)様のところにお急ぎ下さい」

 慌てて弁明したが時すでに遅しだった。

 「しかし、そんな足では無理であろう、せっかくそなたを見つけ助け出したのが無駄になる。大事な品なのか?」

 仕方ないので正直にこくんと頷いた。

 「私が探しに行くゆえそなたは屋敷で待っていなさい。三輪(みわ)よ薬草を持って先に軽皇子(かるのみこ)の屋敷に向かえ、冬韻(とういん)は共について参れ」

 「はっ」

 「山代王様、いけません。私なら本当に大丈夫です。一人で探しに行けますので、どうかお屋敷にお戻り下さい」

 思わず口を滑らせてしまった事を悔やみながら必死に説得したが、山代王は優しくこちらを見て馬にまたがると、冬韻(とういん)と共にもと来た道へと走り出した。

   行ってしまった…

 「燈花(とうか)様、とにかく中に入りましょう」

 小彩(こさ)が言った。空はいよいよ真っ暗になり北からびゅうっと風が吹き始めると、ポツポツと雨が降りだした。