はぁ…フラフラする…言ってしまった。あれほど言動には気を付けなければならなかったのに…

 蘭陵王(らりょうおう)については以前に中国ドラマで見た事があり彼にどハマりし、とことん調べた事があった。けれどまさか、ここでその調べた雑学を完璧にプレゼンし窮地を乗り切るとは思いもしなかった。

 その後はもちろん緊張の糸が切れ、事の重大さを感じたのか足はガタガタと震え力が入らずその場に立っているのがやっとだった。立ちすくむ私のもとに、山代王(やましろおう)がやってきて興奮げに言った。

 「そ、そなたがそれほどまでに聡明で博識な女人だとは知らなかった、驚いたぞ」

  「……」

 もちろん言葉は出ない。

 「顔色が悪いな、疲れたであろう。屋敷まで送るゆえ、今馬を手配してくるから、ここで待ちなさい」

 「はい…」

 今できる精一杯の返事がこれだった。


 一方、中庭の片隅でこの一大ドラマを面白おかしく眺めている者たちがいた。

 「若様、こちらにおられたのですか?探しましたよ、茅渟王(ちぬおう)様と山代王(やましろおう)様にはもう会われましたか?」

 遅れて来た側近の猪手(いて)が息を切らしながら林臣(りんしん)に尋ねた。

 
 「いや、まだだ。舞を見ていたからな」

 「えっ⁉︎まさか舞をご覧になっていたのですか?普段は全く見られないのに…」

 「そなたは見ていないのか?今日の舞は格別に面白かったぞ」

 「え?どういうことでしょうか?」

 側近の猪手(いて)は目をぱちぱちさせながら言った。ちょうどその時、背後から山代王(やましろおう)が現れた。

 「林太郎(りんたろう)来るのが遅いではないか、そなたにも今日の舞を見てほしかったぞ、一体何をしておったのだ?」

 林臣(りんしん)は苦笑いをしてうつむくと、隣にいた側近の猪手(いて)が代わりに答えた。

 「実は稲淵で狩りをしておりました、数日前よりイノシンが田畑を荒らしておりまして、収穫が出来ぬのです。民からの上奏がありましたので若様と共に明け方から山に入り罠を仕掛けておりました」

 「ほぅ、、で仕留めたのか?」

 「あっ、、いえ、何度か罠に掛かったのですが、思いのほかイノシシが大きく狂暴な上に逃げ足も早く、撃ち損ねてしまいました」

 猪手(いて)が悔しそうに答えた。

 「そうか二人ともご苦労だったな。さっ、あちらの部屋で食事を用意させるゆえ、話ながら一杯飲もう。その前に知人を馬に乗せ見送りするから先に始めていてくれ、すぐに向かう」

 「承知しました」

 林臣(りんしん)が頭を下げた。