宮殿の建物の配置は小墾田宮(おはりだのみや)とも橘宮(たちばなのみや)とも実に似ていた。敷地内の建物は全てコの字に並び、中央は広い広場のような中庭になっている。その中庭の一角に苑池が作られ、更にその上には舞台のようなものが組まれていた。その苑池を囲むように沢山の豪族や、朝廷の高官らしき男達があぐらをかいて座り運ばれてきた酒や料理を飲み食いし、楽しそうに大声で笑っていた。

 人だかりの中に先日小墾田宮(おはりだのみや)で会った大臣の小男の姿が見えた。他の高官らしき男達に囲まれさぞかし気分が良いのか顔は真っ赤で、すでにゆでダコのように出来上がっている。隣にいる大男は一生懸命に酒の酌をしながら、わざとらしくうんうんと相槌をし大声で笑っている。この男もどこかで見た顔だ。


 あの小男が蘇我蝦夷(そがのえみし)ね…隣にいる大男って確か一昨日橋の上で会った、、そう!あの男だわ!

    “ドスン” 

 
 チラチラとそちらばかりに意識が向いてしまっていたせいで、冬韻(とういん)が急に立ち止まった事がわからず彼の背中に思い切り頭をぶつけた。

 「ご、ごめんなさい。よそ見をしていたものだから」

 恥ずかしさと痛みを誤魔化すように指で鼻をこすった。いつの間にか大きな屋敷の前に到着していた。

 「こちらの屋敷になります。お入り頂きますと右手側が廊下になっていますので、廊下の突き当たりの部屋でお待ちください」

 冬韻(とういん)がとても丁寧に言ったので、素直に頷いた。冬韻(とういん)は私の後ろにいる小彩(こさ)を見ると、

 「そなた、人手が足りぬのだ。手伝ってくれぬか?」

 と言い、心配ないという表情で私を一度見て、彼女を連れてどこかに行ってしまった。冬韻(とういん)に言われたとおり屋敷の中に入り明るい廊下を奥へと進んだ。

 キシッキシッっと床のきしむ音だけが聞こえる。指示された部屋に入ると、中は日差しが差し込んでいてとても明るかった。部屋はさっき通り抜けてきた中庭に面しているにも関わらず、外の騒がしい宴の音が聞こえずとても静かだ。中庭の奥にあの舞台が見えた。

 部屋にポツンと一人残され不安だったが、中宮から渡された干し柿の荷をしっかりと抱え直し、その場に座った。

 外から入ってくる爽やかな秋の風を感じ、深呼吸をする。見上げた空は高く雲一つない。思えばずっと晴天続きだ。まだ飛鳥に来て雨に打たれていない事に気がついた。

 これからどうなるのだろう…現代に戻れるだろうか…

 急に不安な気持ちが込み上げ涙が溢れた。涙は頬を伝い、ポトポトと床に落ちた。