「小彩(こさ)ごめんなさい。謝るのは私の方よ。あなたを危険にさらしてしまい悪かったわ。でもどうしてもあのふてぶてしい態度が許せなかったの。私達を人だとは見ていないのよ、同じ人間なのに許せなくて…」

 「いいえ、気が付かなかった私がなにもかも悪いのです」

 小彩(こさ)は泣きながらそう言うと、黙って薪を拾いはじめた。馬車に戻った時にはもうすっかり暗くなり、月がぽっかりと夜空に出ていた。宮までの帰り道、小彩(こさ)はずっと下を向き黙っている…相当な落ち込みようだ。その様子からさっき歯向かった相手は相当ヤバイ相手だというのが推測できた。

 「小彩(こさ)あの人達誰なの?そんなに恐ろしい人達?」

 小彩(こさ)は黙ったまま両手を膝の上でギュッと握りしめている。

 「おそらくお付きの方は巨勢(こせ)様です…お隣にいた若君が多分、林臣(りんしん)様かと…はぁ…この先お会いすることもあると思うと、生きた心地がしません…」

そう言うと、小彩(こさ)が再び泣きはじめた。

 「そう…ごめんね小彩(こさ)、私が楯突いてしまったせいで…」

 「いいえ、燈花(とうか)様は悪くありません。私の事も守って下さって本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただこの先の事を考えると不安で…」

 小彩(こさ)が両手で頬の涙を拭った。すでに目がだいぶ腫れているのが月明かりの下でもわかった。

 はぁ…小彩(こさ)には悪い事をしてしまったようだわ、生死が隣り合わせの時代だものね…身分もあるだろうし、感情にまかせるべきではなかったわ。もっと注意して言葉を選ばなきゃ…命がいくつあっても足りないわね…それにしても林臣(りんしん)?聞いた事がない名だわ…身なりからして身分が高そうに見えたけど…誰かしら?…にしても子供のくせになんて生意気なの

 思い出すとまだ腹がたったが、深呼吸をして夜空を見上げた。青白い月の光が真っ暗な道をどこまでも照らしていた。