足早に馬車に乗りこみ大急ぎで店へと向かった。薪屋までもう少しのところで馬車が止まった。どうやらこの先に川があり橋がかかっているが橋幅が狭く馬車では通れないらしい。

 「燈花(とうか)様、ここでお待ち下さい、私走って行ってきますので」

 「でも、外はじき暗くなるし、一人で危ないわ」

 「大丈夫ですよ、いつもの事ですから。こちらでお待ち下さい、すぐに戻ります」

 そう言うと小彩(こさ)は馬車を降り、ビュンと走って行ってしまった。辺りがいよいよ暗くなってきた時、頭のてっぺんに薪を乗せて歩く小彩(こさ)の姿が橋の奥に見えた。

 前が見えないのかよろよろと足元はふらつき今にも道端の水路に落ちそうだ。

   あんなに担いで危ないわ…

 私は居てもたってもいられず馬車を降り、小彩(こさ)のもとに駆け寄った。

 「ハァハァ…大丈夫?こんなに一人で持って危ないわよ。半分持つから頂戴」

 「燈花(とうか)様?そんなこと頼めませんよ…」

 小彩(こさ)がバツが悪そうに答えた。

 「大丈夫よ、二人の方が早いし安心よ。さぁ早く薪をちょうだい」

 渋る彼女から半ば強引に薪を取ると、来た道を急いで戻った。ジャプジャプと川の流れる音が大きくなり一列になり幅の狭い橋を渡ろうとした時だ、

 「燈花(とうか)様、危ない!よけて下さい!」

 後ろからついてくる小彩(こさ)の大きな叫び声が聞こえた。

 えっ?と思い首を曲げ前方を見ると馬二頭が猛スピードですぐそこまで来ていた。川の音で全く気がつかなった。

 「キャーーーッッ!!」

 大きな悲鳴と共にガラガラと薪が手から落ちその場に倒れた。

  ダメだ、間に合わない!ひかれる!

 そう思ってギュッと目をつむり、手で顔を覆った。

 「止まれっ止まれ! ! ドオッ、ドオッー!!」

 ヒヒィーン、ヒヒィーーーン

 馬が大きくのけぞっている。パカッパカッっと馬の強烈な蹄の音が聞こえ土埃が混じった風がピュウーっと顔に当たった。恐る恐る目を開けるとギリギリの所で馬は止まり、目の前をパカパカと興奮気味に歩き回っている。

  危なかった…生きてる…良かった…

 心底ほっとした。ふぅと胸を撫で下ろしたのもつかの間、馬には不機嫌そうな厳つい髭面の男一人と、もう一頭には若い男が乗っていた。若い男の細い切れ長の瞳は冷たくこちらを睨み、口はへの字に固く結ばれ、なんとも不愛想な表情だ。昼間、小墾田宮(おはりだのみや)で会った山代王よりも、もっと若く見えた。

 「貴様ら危ないであろう!死にたいのか!采女(うねめ)の分際でなんたる無礼ものどもめ、命はないと思え!」

 髭面の男が怒り心頭の様子で真っ赤な顔をしながら怒鳴った。