静かな校舎の中2人の足音が響いている。
「…うわー…、初めて来た。」
「えっ?初めて?」
「あっ、えーーと、そうなの!私の授業じゃ使わないから!」
忍び足の先生に対して、彩の足取りは軽やかだった。
階段を登って、登って、登って。
「どこまで行くのー!?だめよ!」
「上に行きたくて。」
1番上へと到着して、自然と右へと進む彩
まっすぐまっすぐ歩いて、奥の空き教室
そこはソファとテーブルだけが置かれていた。
それを目にした彩は胸が震えた。
ゆっくりと中に入って、目に焼き付けるようにソファとテーブル、そして窓から見える景色を眺めた。
「彩さーん!そろそろ帰ろう?」
先生が声をかけても返事はなく。
授業が終わるチャイムが聞こえて、慌てて先生が彩を戻した。
「あの棟って誰か使ってますか?」
「気に入ったの?」
「なんか、居心地良かったんです。…また行きたい。」
お昼に保健室の先生を隣の部屋に誘っていた。
彩と散歩をした先生からも報告は受けていた。
何かあるのかもしれないと。
…それはきっとあるだろうと、今日も手元にある彩へのおやつを眺めている。
「分かった。でも何かあったら先生に連絡して。」
「ありがとうございます!」
あの棟を出入りする人間は限られている。
彩が棟に行くことを伝えれば、きっと向こうが完璧に守ってくれる。
「はい、これおやつ。」
嬉しそうに受け取る彩の顔を見せてあげたいと思ってしまっていた。
毎日毎日、放課後に1日の様子を尋ねて来る生徒に。
掴めない子だと思ってた、なんなら教師より大人だと感じていた生徒から感じる甘酸っぱいもの。
「彩ちゃん、愛されてるよ。」
それはもう逃げられないほどにね。



