福は部活動の生徒がほとんどいなくなった校庭で、拓巳と100mダッシュを数回トライした。
きっと、拓巳は幸の意外な一面を見たと思っているはず。
本当は幸は走ることが大好きで、走れば結構速いということを。



蓮は校庭が見える体育館の外階段から、幸と拓巳をずっと見ていた。

今日、蓮は透子の用事につき合うためにバイトを休んでいたけれど、急に透子に別の用事が入った。
普段の蓮なら、透子に問いただす事はしない。
でも、今日の蓮は、その急な用事を知りたくてしょうがなかった。


「俺と約束してたのに、どんな用事が入ったの?」


透子は困ったように微笑んだ。


「言わなきゃだめ?」


「聞きたいって言ったら?」


透子は下を向いて黙る。


「ごめん、別にいいよ。
つまんない事聞いてごめん」


蓮は最悪な気持ちだった。


「ごめんね…
実は、斎藤君に、斎藤道君に呼ばれたの…
大切な話があるって」


「斎藤道? あいつが?」


「蓮君、ごめんね。
今日はそっちに行きたい…」