福はミッチーのあり得ない提案にどう切り返していいのか分からなかった。
私が佐倉透子から蓮を奪う? そんなことできるのだろうか?
「ミッチー、本気で言ってる?
今日、初めて佐倉透子さんをちゃんと見たんだけど、すごく綺麗で、品があって、私もドキドキしてるくらいなのに…
っていうか、なんであんな素敵な人がれんれんとつき合ってるんだろ?
ね? それおかしくない?」
ミッチーは笑いながら福の頭をなでて、そっと耳元で囁いた。
「でも、今の幸なら奪えるよ」
すると、前を歩いている透子が、急に振り返ってこっちを見た。
福は恥ずかしさのあまりミッチーの後ろに隠れる。
ミッチーは外国人がするようなジェスチャーで肩をすくめた。
あれ?
その時、福はなんとなく気づいてしまった。
透子とミッチーは、知り合いかもしれない。
だって、透子がミッチーを見る目には愛しさが溢れている。
駅のホームで、福はちょっと蓮から距離を置いて電車を待った。
透子とミッチーも、向かいのホームでやっぱりちょっと距離を置いて立っている。
先に、向かいのホームに電車が着いた。
電車が待っている人々を乗せて出発すると、そこにはもう、透子の姿もミッチーの姿もなかった。
「れんれん?」



