福は蓮に声をかけることができない。
透子の存在を間近で感じた福は、透子への敵対心が芽生えるどころか女性としての透子への憧れで、不思議と心の中は満たされている。
それに、蓮は福の事を気づかずに透子と話し続けている。
二人が福の前を通り過ぎても、蓮は全く気づかない。
福は二人と少しだけ距離を置いて、駅まで歩いた。
「幸~、ゆきちゃ~ん」
後ろから、幸を呼ぶ声がする。
福が振り返ると、ミッチーが手を振りながら福の元へ駆けて来るのが見えた。
「ミッチー、今日、部活は?」
「そっちこそでしょ?」
「私は、今日、バイトなんだ」
すると、ミッチーは前を歩いている蓮に気づいたのか鼻で笑った。
「幸、大石蓮が好きなの?」
「…うん」
突然の質問に、さすがの福も驚いた。
ミッチーは素知らぬ顔で、前を歩く二人を見ている。
「幸、あの娘から大石蓮を奪っていいよ」



