れんれんと恋するための30日




三人は運動部の朝練の邪魔にならないように、校庭のトラックを控えめに走る。
梨華は2周目を過ぎたあたりから、スピードが落ち始めた。


「もう、無理かも。
リタイヤします…」


梨華はそんな事を言いながら、真っ青な顔をして校庭の隅に消えて行った。


「幸も無理しなくていいからね」


拓巳は幸にペースを合わせている。


「大丈夫。
拓巳、走るのって本当に気持ちいいね~」


福は心の底からそう思っていた。
朝の涼しい風を体に感じ、幸の心臓は規則正しくリズムをとる。
皆にとっては普通の事だけど、福にとっては夢のまた夢のようなこと。

以前、幸の運動会のビデオを見ながら、自分が走る姿をいつも思い描いた。

幼かった会田福は走る事を知らずに死んでしまったけれど、今、私はこうやって大好きな姉の体を借りて、友達と走っている。


「拓巳、私を朝練に誘ってくれてありがとう~」


福は息を弾ませながら、大きな声でそう言った。

拓巳は、笑っているのに泣いている幸の横顔をそっと見ていた。