福は、蓮と海に行く約束をした事が嬉しくてしょうがなかった。
そして、家に帰り着いてからも、福のご機嫌は止まらない。

そんな幸の姿を、母親の今日子は静かに観察していた。
まずは、ツィンテールで帰って来た幸に、今日子は驚いた。
幸の性格は、母親の今日子が一番分かっている。
眼鏡をコンタクトに変えて髪を下ろした時も、今日子は不思議に思っていた。

幸は、変わってしまった。
本当の幸はどこへ行ってしまったのだろう。

でも、今日子はこの変わった幸も愛おしくてしょうがない。
あまり笑わなかった幸が、笑っている。
何か大きな心の変化があったのかしら…?

今日子は、いつか、幸が話してくれることを心から願っていた。


「ママ、幸ね、今度の体育祭で100m走の選手になったの」


「え~、なんで? 
かけっこなんて、全く興味なさそうだったじゃない?」


「ママ、幸は変わったの。
福がそうさせてくれたんだ」


今日子は言葉に詰まっていた。
幸の口から福の名前が出るなんて、今までなかったことだから。