「幸、俺が仕事に専念してるのは分かるだろ?」
「ニコニコして、僕を見て~って顔してるじゃん」
幸は口を尖らせてそう答えた。
「営業スマイルだよ。
例えば、お客様が俺にまた会いたいって思って店に来てくれれば、店の売り上げが上がるわけで、だから、店長は絶対に俺をホールに出す」
「ふ~ん」
蓮はこの幸の表情にいつも戸惑ってしまう。
何かを企んでいる悪戯っ子のようだ。
「あ、れんれん、さっきちゃんと答えたからご褒美ちょうだい」
やっぱりな…
ちゃっかり催促してくるところが抜け目ない。
「何がいい?
でも、俺を困らせない程度の物にしてね」
今度は、子猫のような切ない瞳で俺を見る。
「今度の週末にれんれんとデートがしたい」
「週末は夜はバイト入ってるし、昼は…」
「昼は?」
「昼は、透子と会う約束があるんだ」
幸は透子の名前を聞いた途端、沈んだ表情になった。
「週末っていっても、土曜日も日曜日もあるじゃん。
どっちもだめ?」
「うん、どっちも用事が入ってる、ごめん」
福にとっての週末は、たったの四回しかなかった。
その内の一回は、体育祭でつぶれてしまう。
福は、蓮とデートがしたかった。
一度も見たことがない海に蓮と行きたい…
でも、福は焦る気持ちを抑え、笑顔で蓮を見た。



