れんれんと恋するための30日



ミッチーは、福に途中まで仕上がっている原稿を手渡した。


「僕は、幸の人間の奥底を描くドロドロした作品が大好きなんだから。
明日には絶対仕上げてきてよ。よろしくね」


ミッチーはそう言うと、福のほっぺに軽くキスをした。


「え? あ、はい」


福はこの不思議なジェンダーレス的なミッチーにも驚いたけれど、もっと驚いたのは、ミッチーと幸の共同制作の漫画だった。

ここに描かれているものは、一体、何? 
細かい繊細なタッチの絵は、なぜか恐ろしいものにしか見えない。
よくよく見ると、ゾンビの集団?
そして、血しぶき?
なんと二人が手掛けている作品は、究極のホラー漫画だった。

福は拓巳にバイトの話をして、部長にその件を伝えてほしいと頼んだ。


「幸、忘れたの? 
この間、3年生が引退して、部長と副部長を俺と幸で引き継いだこと。
本当に大丈夫か?」


拓巳の眼鏡の奥に見える瞳は、何かを探るように福を見ている。


「あ~、そうだったね。
まだ、3年生がいるような気がしてた」


福は慌ててそう言うと、梨華を連れて漫研を飛び出した。
バイトのシフトも考え直さなきゃ。
副部長の私が、毎日部活を休むわけにはいかないから。


「幸はどこでバイト始めるの?」


梨華が興味津々にそう聞いてきた。