「幸、明日からは、ちょっと見方を変えて楽しんでもらいたいな」
「見方?」
「これは福の物語じゃない、幸の物語。
今の幸には福とれんれんのことかもしれないけど、あと少ししたら、この記憶は幸のものになる。
あと何日かで私は幸の中からいなくなるけど、私のいたこの30日間の記憶は幸の思い出となって残るの」
「………」
幸は黙ってしまった。
これは福の大切な物語だ、私のではない。
「幸、ごめんね…
私は小さい時かられんれんの事が大好きだった。
結婚するなら、絶対にれんれんじゃなきゃ嫌だって思ってたくらい。
でも、幼い私の心は気づいてたの、幸もれんれんが好きだってことを…」
幸は福の告白に何も言い返すことができなかった。
でも、それは遠い昔のこと…
あの頃の私は、福のために我慢する事に慣れていた。
それが日常で、それは当たり前だった。
大好きな可愛い妹のために、私ができる精一杯の愛情表現だった。
「でも、それは小さい頃の話だよ。今は違う」
幸は小さな声でつぶやいた。



