「透子さん」
福は透子を見つけて声をかけた後、すぐに、立ち止まった。
透子の前を蓮が歩いていたから。
「幸ちゃん、どうしたの?」
福は何も言えずにいた。
蓮を目の前にして、フォークダンスの事を言えるはずがない。
「ごめんね。何でもなかった」
福が苦笑いをしながらその場を立ち去ろうとした時、蓮が福の手を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「お前、ちょっと調子が悪いだろ?
さっきのかけっこの後、顔色悪かったからさ。
大丈夫か?」
突然の蓮の優しさに、福の胸の中がざわつき始める。
「大丈夫だよ。
見ててくれたんだ、嬉しい、ありがとう」
蓮は「無理すんなよ」と一言だけ言って、その場からいなくなった。
「幸ちゃん?」
福は現実に引き戻される。
透子さん、私、やっぱりれんれんが好き…
れんれんに会うために、この世界にやって来たから。
透子さん、れんれんの気持ちを、私に下さい…
でも、言えるはずないよね。
だって、透子さんには何も関係ないことだから…



