「私の絵を描き終わったら?って聞いたら、描き終わったら、もう、私と道の間には何もなくなるって」
福は胸が痛んだ。
さっきのような急な痛みではなく、切なさからくるそんな痛みだ。
「それでミッチーは?」
「約束なんかなくても、僕にとって透子は大切な存在だよ、家族と一緒なんだからって…」
透子は目にいっぱい涙を溜めている。
「それでどうするの?
ミッチーは来月の10日にフランスへ帰るって言ってた」
透子は、まばたきもせずにずっと外を見ている。
かろうじてまつ毛に留まっている涙が、透子の決意を物語っている。
「明日から絵を描いてもらうことにした。
道と二人になれるし、たくさんの話をしようって思ってる」
「透子さん、その時に、絶対に、自分の気持ちを伝えなきゃダメだよ。
後悔しないように、絶対に…」
福は透子の手を握り、力強く目配せをする。
透子と道の別れは永遠のものではないけれど、でも、舞い込んできたチャンスを無駄にしてほしくない。
少しだけ笑顔が戻った透子を、福は笑って送り出した。



