(ああ、エレン様ったらなんて美しいの? 綺麗。素敵すぎる)


 こんなにユリが似合う男性なんて他には絶対存在しない。エレン様がユリをお好きだと知ったときは歓喜の涙がとまらなかったもの。


『いつも綺麗だね。このカフェに来るたびに思っていたんだ。俺、自分でも知らなかったけど、ユリの花が一番好きみたいだ』


 あの日の嬉しそうなエレン様の笑顔! 温かな声! 本当に尊かった。
 あの日からユリの花は、わたしにとっても一番好きな花になった。庭師に習いながら自分で育てはじめたほどだ。だって、エレン様が好きなものを育ててるって思ったら幸せなんだもの。おかげで早起きをするのがさらに好きになった。エレン様に大感謝だ。


「ヴィヴィアン様は俺が魔法を使うのを見るのは二度目でしょうか?」


 言いながら、エレン様は黒い革手袋をギュッとはめる。金の魔法陣が裏面に描かれた、指先の出る手袋だ。
 カッコいい――――と思うと同時に、なんだか動悸がしてくる。上品なのに! 優雅なのに! 扇情的だなんて! そんなのありなのだろうか? 罪づくりがすぎない? あまりの美しさに、わたしは本気でめまいがした。


「そうね。一度目はわたしがまだ12歳の頃――――エレン様に助けてもらったときだったと記憶しているわ」


 必死に平常心を装いつつ、わたしは台の上に置かれたユリの花束を見つめる。