(それにしても、あの店にエレン様が来てくれるようになるなんて夢にも思わなかったな)


 あのときは本当に驚いた。驚きすぎてバックヤードでめちゃくちゃ泣いた。
 わたしったら好きすぎて、ついに幻覚まで見るようになってしまったんだなって。悟りを開けたんだって喜んだんだけど、夢じゃなかった。
 しかも、来店は一回だけじゃなく、エレン様はうちの店の常連さんになってくれた。そのうえ、エレン様はいつもわたしのとりとめのない話を聞いてくださった。好きがとんでもないほどに加速した。

 そんな最上最強の推しの家に来ているなんて、どう考えてもおかしい。やっぱりこのまま引き返すべきなんじゃなかろうか? なにかの間違いだって。エレン様がわたしを招待するはずなんてないんだから――――


「大げさなんかじゃありませんよ。そのぐらい、俺はヴィヴィアン様が来てくださるのを楽しみにしていましたし、大事に思っているんです」


 エレン様がわたしの顔を覗き込む。途端に心臓が大きく跳ねた。


「さあヴィヴィアン様、こちらにどうぞ。せっかく来ていただいたんですから、よそ見をしないで。今日は俺のことだけを考えてくださいね?」


 エレン様はニコリと微笑み、わたしの手をギュッと握る。あれこれ考えて、時間稼ぎをしていたのがバレたらしい。


「〜〜〜〜〜〜努力する」


 一応そう答えたものの、そもそもわたしの頭の中はエレン様で埋め尽くされているのがデフォなわけで。一所懸命努力して、なんとか別のことを考えているわけで。それすらもエレン様とは完全には切り離せず、関連した内容ばかりだというのに。


(わたしは生きてこの家から出られるんだろうか?)


 まったくもって自信がなかった。