「なっ……ヴィヴィは常々、エレンよりも素晴らしい男性はいないと言っていただろう? 彼で不足するなら、一体誰が――――」

「お父様ったら、なに馬鹿なことを言っているんです! エレン様に足りない部分があるわけないでしょう! そうじゃなくて! わたしは、わたしじゃエレン様に釣り合わないって言ってるの!」


 怒りのあまり、髪の毛がブワリと逆毛立ってしまう。


(たとえ皇帝陛下であっても言っていいことと悪いことがある! エレン様を冒涜するなんてわたしが絶対許さないんだから)

「釣り合わないって……ヴィヴィ、おまえは帝国で――――いや、世界で一番身分の高い女性だろう?」


 相当驚いているらしい。お父様は唖然とした表情でそう呟いた。


「そんなことはわかってる。身分でわたしの上に立つ女性はいないわ。だけど、大事なのは身分じゃない。わたしはエレン様には最高の女性と結婚して、幸せになってほしいの。だから、わたしじゃダメなのよ」


 言いながら、わたしは深々とため息をつく。