「いいえヴィヴィアン様、いいえ。お二人がご結婚なされば、いつでもエレン様のご自宅にうかがうことができるようになりますよ? なんなら、皇城がエレン様のご自宅になるのですよ? 領地にある生家にも気軽に顔を出せるようになるでしょうし、いいことづくしではありませんか?」


 まるで幼子を諭すかのような口調。エレン様への想いがカンストしているときのわたしには、ヨハナが絶対的に必要だ。客観的な視点から冷静に発言をしてくれるので、いつも本当に助かっている。ほんの落ち着きを取り戻せるうえ、自分の感情と改めて向き直ることができるんだもの。


「それはそうだけど、それとこれとは話が違うの! わたしはエレン様のプライベートの一部になりたいんじゃなくて、エレン様のプライベートを覗き見したいだけなの! そこには越えられない壁が――――とてつもなく大きな違いがあるのよ!」


 オタク心を他人に理解してもらうのって案外難しい。人にはそれぞれ価値観があるから、たとえ同じ推しを持つ者同士でもわかりあえないこともあるという。一般人ならなおさらだ。
 そもそも、世の中には推しが同じ人とは仲良くしたくないって人もいるらしい。解釈違いが許せなかったり、他人には渡したくないっていうのがその理由だそうだ。別に、ヨハナはエレン様推しっていうわけじゃなく、わたしに合わせてくれてるんだってわかってるけど。