(さてと)


 そろそろヴィヴィアン様が到着した頃だろうか? 屋敷の中がにわかに騒がしくなってきた。
 皇女様をお迎えするとあって、家令をはじめとしたみんなが張り切っている。エントランスに庭、屋敷の塗装、調度類に、使用人たちの服装や立ち居振る舞いに至るまで、ありとあらゆるものを見直したものだ。
 もちろんそれは俺自身も。念には念を入れて準備をした。


(また解釈違いって言われたくないからな)


 あの発言には結構傷ついた。ヴィヴィアン様のなかで、俺はどれだけ神格化されているのだろう? 俺はそんな大層な人間じゃないのに――――そうは思うけど、彼女の中の俺のイメージはできる限り守ってやりたい。屋敷のなかはきちんと聖域として存在させるべきだ。
 そのかわり、結婚については譲ってやる気がないのだけれど。


「エレン様、皇女様が到着なさいました」

「ああ、今行く」


 さて、反撃だ。
 ここから先、一方的に愛でられるつもりはない。散々深みにはめられたんだ。その分をお返ししなければならないだろう?
 ヴィヴィアン様を乗せた馬車を眺めつつ、俺は小さく笑った。