(リリアンさんは平民……なんだよな?)


 普通に考えれば、貴族や名家の娘がカフェで働くなんてことはありえない。彼女たちは人に世話をされることが常態化しているから、給仕をするという概念すらないはずだ。
 もちろん、中には皇城で侍女をするものや、他家に働きに出ざるを得ない令嬢もいるだろう。だが、極めて少数派だ。少なくとも、街なかの店で働くことはないだろう。――――いや、ないと思うのだけれど。


「まあ、それでさ! リリアンちゃんのシフト表をゲットしたんだ! 行くならあの子がいる日がいいだろう?」

「……! ええ、まあ、そうですね」


 というより、あの子がいないなら行っても意味がない。先輩から受け取ったシフト表に目を通しつつ、俺は思わず目を瞠った。


「――――本当に不規則勤務なんですね」


 次の一週間で彼女が出勤するのはたったの二日、おまけにそれぞれ二時間という短さだ。ふと気が向いたから行ってみたという感じでは遭遇できないに違いない。


「これ、来週も同じシフトなんですか?」

「いや。来週は来週で勤務時間が変わるらしいよ? あの年齢であの激務をこなすなんて、すごいよな」

「……? リリアンさんって何歳なんですか?」

「14歳。老け見えしてるよな」


 先輩はニシシと笑いつつ、俺の肩をバンバン叩く。一体なにがそんなに楽しいのか……わからないけれど、おかげでなんとなく体内のざわめきが収まった。