翌日のこと、俺は職場で先輩に声をかけられた。


「なあ、おまえ次はいつ店行く予定?」


 揶揄するような笑み。色々と情報が端折られているが、それがどの店を指しているか、俺にはすぐにわかった。


「特に決めてませんけど……なんでですか?」

「それがさ、リリアンちゃんって結構神出鬼没というか、あんまりシフトに入ってないらしいんだよね」

「そうなんですか……。意外ですね。いつもあの店にいそうな印象を受けましたけど」


 会ったのは一度きり、一緒に過ごした時間はほんのわずかだけれど、あの店があの子にとってとても大事な場所だってことが俺にだって伝わってきた。仕事が入っている、いないに限らず、できる限りの時間をあそこで過ごしていそうな気がしていたのだけれど。


「もしかして、カフェ外の推し活に忙しいんですかね?」


 昨日聞いた話を総合すれば、推し活というのはなにもカフェ内での行動にとどまらないようだ。もしかしたら彼女は、俺には理解の及ばないいろんなことをしているのかもしれない。――――いや、あの子に言わせれば、日常生活のありとあらゆることが推し活に繋がりそうな気すらしてくる。


「あぁ……まあ、それも一理あるだろうし、できる限り顔を出してるんだとは思うよ? だけど、あの子って実はものすごく忙しいらしいんだ。なんでも、ご実家の手伝いをしているらしくてさ」

「なるほど。ご実家の手伝い」


 先輩の物言いはなんとなく歯切れが悪い。ついつい探るような口調で返事をしつつ、俺は静かに首を傾げた。