リリアンは必死だった。大きな瞳を涙で潤ませて、とても可愛い。
 ――――と、俺はまたもや自分の思考に驚いた。こんな感情、これまで覚えたことがない。本当に意外なことだった。 


「また来ますから――――そのときはできたてのコーヒーを飲ませてください。いいですね?」


 この件について、一歩も引かない姿勢を見せれば、リリアンはグッと唇を引き結び、それからコクリと小さくうなずく。俺はニコリと微笑んだ。


「うん……美味いよ」


 あのとき飲んだコーヒーは、本当に、お世辞抜きに美味かった。ミルクが甘くて、コーヒーがほろ苦くて。リリアンの想いがたっぷり詰まっていて。涙が出るほど心にしみた。


(一度きりのつもりだったのになぁ)


 ついつい再来の約束をしてしまった。
 けれど、次回はコーヒーと一緒になにを頼もうかとか、どんな会話を交わすか考えているだけで、なんだか楽しくなってくる。嬉しくなってくる。
 そんな俺のことを、一人ゆったりとカプチーノを楽しんでいた先輩がじっと眺めていた。