「どうした、ヴィヴィ? 思う存分喜んでいいんだぞ?」


 お父様がそう言って微笑む。褒めてくれと言わんばかりのドヤ顔だ。
 だけど、わたしの心境は真逆だった。喜ぶどころか怒りで満ちていて、抑えることにめちゃくちゃ必死。微笑み返してあげるなんて絶対に無理だった。


「お父様、少しの間ふたりきりで話をさせてください」

「え? だけどエレンが」

「少し! ふたりきりで話をさせてください!」


 お父様を無理やり広間から連れ出しながら、わたしはエレン様をチラリと見遣る。彼は相変わらず聖人のような神々しい表情を浮かべていて、思わず目頭が熱くなった。


「どうしたんだ、ヴィヴィ。おまえらしくない。一体なにが……」

「ありえない、ありえない! エレン様の結婚相手がわたしだなんて、ありえない!」


 控室に着くなり、わたしは思わず声を荒らげた。

 誰よりも美しくて麗しくて尊いエレン様が。
 誰よりも優しくて聡明で素晴らしいエレン様が。
 このわたしなんかと結婚していいはずがない。っていうか絶対ダメだ。