「一体どのぐらい練習を――――試行錯誤を重ねたんですか?」

「えーーっと、ざっと二年弱ってところでしょうか? 最初は簡単な模様から練習して、段々複雑な模様を描けるようにしていったんです。あっ、もしもエレン様が別の模様をお好みなら、ハート型とか、ウサギとか、葉っぱや花なんかも描けますし、短い文章も書けると思います。本当は魔法が使えたら、もっと複雑な模様が書けるかもしれないんですけどね。ないものねだりをしても仕方がないので」


 リリアンはそう言いつつ、全く苦労をにじませない。むしろ楽しげな様子だった。


「どうしてそこまで?」

「……? えっと、そこまでっていう感覚は正直言って全くないですよ。全部楽しんでやってることですから」


 リリアンは心底不思議そうな表情で首を傾げる。納得できない――――そんな俺の感情を読み取ったのだろう。彼女はそれからそっと瞳を細めた。


「最初はただの趣味だったんです。好きなものを思う存分愛でたい、表現したいっていうのがキッカケでした。……なんというか、目や耳から摂取する推しもいいんですけど、それだけだと味気ないなぁって思いはじめまして」

「……ん?」


 段々とリリアンの話が難解になってきた。『推し』とか『摂取する』とか、言葉の意味はわかるものの、何が言いたいのかイマイチ理解できない。そんな俺を置いてけぼりに、彼女はうっとりと頬を染めた。