先輩の言葉で我に返ったそのとき、ちょうどリリアンがお盆を手に戻ってきた。


「お待たせいたしました。カプチーノをおふたつ、お持ちしております」


 ニコニコと愛想のいい笑みを浮かべながら、リリアンがテーブルにカップを置く。明るく元気な受け答えの割に、その手付きは優雅かつ丁寧だ。そういえば、姿勢や歩き方も美しかった。まるで名のある貴族に仕える侍女――――いや、貴族そのものの立ち居振る舞いのように。

 けれど次の瞬間、それとは全く別の理由で、俺は驚きに目を見開いた。


「これ……魔術師団の紋章ですか?」


 小さなティーカップのなか、カプチーノに描かれた繊細な模様。それは俺たちがしょっちゅう目にしているもの――――魔術師団の紋章だった。


「ええ、そうです! 本当は魔法陣を描きたかったんですけど、さすがにレベルが高すぎてラテアートにできなかったので……もう少しシンプルな魔術師団の紋章を描いてみました」

「シンプルな、って……言うほどシンプルではないと思いますけど」


 というか、普通に複雑だ。三日月の中に大きな五芒星が入り込み、その周辺に細かい模様が散りばめられている。飲み物というよりもはや芸術作品に近い。俺は素直に感心した。