「えぇっ? エレン様のことを知らない女性なんて、この帝都にはいませんよ! 至上最年少で小隊長に昇進した天才魔術師様! 皇帝陛下の覚えもめでたいし、侯爵令息っていうステイタスもカッコいいですし! なにより、こんなに美しくて優しくて素晴らしい方なんですもの! 帝都中の人間があなたに憧れています! なんなら崇拝しています! 知っていて当然です!」

「いや、さすがにそれはないと思うけど……」


 そう返事をしたものの、リリアンがあまりにも疑いもためらいもない表情で言うものだから、ついつい納得しそうになってしまう。


(それはさておき。俺はこの子に会ったことがない――――ってことでいいんだよな?)


 リリアンは未だに俺がどんなに素晴らしい人間なのかを語っている。そこに具体的なエピソードは出てこないし、初対面ということなのだろう。


「それでは、ご注文がお決まりの頃にまたうかがいます」

「あっ、俺はなんでも……先輩に合わせますよ」


 その頃の俺は、家ではいつも使用人が選んだものを飲んでいたし、店に入ることはほとんどなかった。茶葉の種類に明るいわけでもなかったので、どれを飲んでも一緒だと思っていた。
 先輩は常連だし、なにを頼むか決まっているのではないか――――二度手間を避けるために口にした言葉だったけれど、リリアンはいたく感心した様子で、瞳をパッと輝かせた。