「エレン様だ……」

「ん?」

「エレン様がわたしのお店に来てくださったんだわ! どうしよう……! 夢みたい! 嬉しい! 光栄すぎるわ!」


 女性は頬を真っ赤に染めて、興奮した面持ちでまくし立てる。予想だにしないできごとに、俺は思わず目を瞬いた。


「ああ、掃除は行き届いているかしら? 空調は? BGMは? 万全の状態でお迎えでしなければ……!」

「リリアンさん、一旦落ち着いて――――どうぞご安心ください。この店は従業員一同の涙ぐましい努力により、常に最良のコンディションを保っていますから」


 リリアンと呼ばれた店員とは別に、奥から店員がやってくる。美人だけれど、どこか無愛想な女性だ。リリアンという店員が表情豊かだからこそ、そう思ったのかもしれないけれど。


「あっ、ジョアンさん! こんにちは。今日は後輩を連れて来たんだよ」


 すると、先ほどまで黙っていた先輩がヒョコリと顔を出した。ニヤニヤとどこかしまりのない表情だ。彼女が先輩のいう『推し店員』なのだろう。
 ジョアンと呼ばれたほうの店員は「ああ」と小さく相槌を打ち、それから恭しく礼をした。


「いらっしゃいませ。すぐにお席にご案内いたします。リリアンさん、さあ、気をしっかり」

「そうね。こんな情けない姿をエレン様にお見せするなんて、あってはならないことだものね! ありがとう、ジョアン。わたし、ようやく目が覚めたみたい」


 リリアンはペチペチと頬を叩くと、花のような笑みを浮かべる。


「改めまして、いらっしゃいませ! どうぞこちらへ」


 それから、俺たちを席へ案内してくれたのだった。