「いいですけど……どうしてそこまでして、そのカフェに行きたいんですか?」


 それは純粋に浮かび上がり、投げかけた質問だった。

 当時の俺は、なにかにこだわるとか、執着するという感覚がわからなかった。どうでもいいと考えているわけではないが、選んでいる、好んでいるという感覚がない。

 魔術師団に入ることを決めたのも、次男であるがゆえ、爵位を継ぐ予定がなかったことに加えて、自分の魔力量が人より多く、技術的にも優れている自覚があったからだ。そこで成し遂げたい目標があったわけでも、誰かに感謝されたかったわけでもない。少なくとも、その時点で俺はそんなふうに思っていた。


「それがさ、カフェの店員のなかにすごく綺麗で、おそろしいほど好みの女性がいるんだよ。見ているだけで癒やされるっていうか、ついついカネを落としたくなるわけ。俺の推し店員ってやつ」

「へ? ……推し、ですか」

「そう、推し」


 それは俺にとって馴染みのない言葉だった。文字列からなんとなく意味合いはわかるものの、どこかふわふわとしていて概念めいている。


「とにかくついてきてよ。エレンにも推しが見つかるかもしれないだろう?」


 先輩はそう言ってニカッと笑った。