入団から2年後、俺は小隊を任されるようになっていた。

 こんな若造に隊を任せてよいのだろうか? ――――そんな想いもなくはない。けれど、魔術の腕には自信がある。俺に足りないのは経験と実績だとわかっていた。


 とはいえ、部下ができるということは、これまでとは違った重責を背負うことを意味している。俺は少しだけ――――ほんの少しだけ、仕事に嫌気が差していた。


「なあ、エレン。ちょっと息抜きに行かないか?」


 そんなとき、先輩の一人からそんな誘いを受けた。


「――――息抜き、とは?」

「近くにさ、いいカフェがあるんだよ。甘いものでも食べたら少しは元気が出るだろう?」


 疲労が顔に出ていたのだろうか? 情けない――――当時の俺は、先輩が俺のことを労おうとしてくれているのだと考えた。


「ありがとうございます。気持ちはありがたいのですが、甘いものなら家でも食べられますから」

「違う違う。男一人でカフェって入りづらいだろう? だから俺のためについてきてほしいんだよ。おまえがいたら気兼ねなく入れるだろうからさ」

「そうでしたか」


 どうやら俺のため、というのは勘違いだったようだ。俺は少しだけ気が楽になった。