「この度は婚約おめでとう――――と言っていいのかな?」


 ライナスは言いながらクックっと喉を鳴らす。わたしは首を横に振った。


「だろうね。だとしたら、こんな形で人を集めはしないだろうから。つまり、僕にもまだ、皇配になるチャンスはあるっていうことかな?」

「――――そのとおりよ。今回の婚約話は完全に寝耳に水だったから、考えるだけの時間がほしいとお父様に頼んだの。エレン様の他に、納得できる男性を連れていけたら検討していただけるという話だったわ」


 詳細は省きつつ、わたしはライナスにことの次第を説明する。


「なるほど、理解した。それなら、君と陛下に認めていただけるように努力するよ」


 彼は最低限の情報を与えるだけで大半のことを理解してくれる。会話をしていてとても楽な相手だ。


「それにしても……令嬢も一緒に集めたのはどうしてなんだい? しかも、見たところかなりの美人ばかりじゃないか」


 さすがのライナスも、この場に令嬢を集めた意味についてはすぐには理解できなかったらしい。わたしは左右を確認してから、声をひそめた。


「それはその……もしもエレン様との結婚をお断りすることになったら、代わりのお相手を用意しなきゃいけないでしょう? だから、自分の目で、彼にふさわしい女性を見つけたいなぁって思ったの。折よくわたしの誕生日祝いのためにたくさんの令嬢が集まっているし、とびきりの美人や賢い女性を集めてみたのだけど」

「――――そんな必要ないよ」

「…………え?」


 けれど、かえってきたのはライナスとは違う声――――というか、絶対間違えようのない最上の響きだった。


「エレン様⁉」


 うしろを振り返り、驚愕に目を見開けば、エレン様がニコリと微笑んだ。