「この間も言ったでしょう? 好きだからこそダメなのよ。だって、わたしじゃエレン様にふさわしくない。幸せにしてあげられない。そんなふうに思いながら結婚生活を送るなんて、きっとものすごく辛いでしょう?」


 きっと辛い。とても辛い。
 いや――――毎日エレン様の顔を一番に見れて、毎日エレン様の声が聞けて、一緒に食事なんかもとれたりして、ベールに包まれたプライベートを覗き見できる――――それ自体はものすごく幸せに違いない。

 だけど、夫婦という関係はなぁ……合わない。どう考えても受け入れられない。
 わたしはあくまでエレン様のファンだ。彼を支え、崇め讃えるのがわたしの役目だ。
 ファンの分際で推しの妻になろうとするなんておこがましい。っていうかあっちゃいけないことだ。


「他の男性との結婚なら、たとえお父様より年上だろうが、多少容姿に問題があろうが、喜んで受け入れていたわ。この国を正しく導くために、配偶者は必要だもの」


 大小50を超える属国から成り立つ広大な帝国を平和に維持するのは、並大抵のことではない。そのうえわたしは女だもの――――どうしたってお父様よりも舐められてしまう。

 代替わりをしたその瞬間、帝国からの独立を目指して兵を挙げる国がでてくる可能性は高いし、他国から攻め入られるおそれもある。そのせいで民の生活を脅かしてしまうなんて、絶対にあってはならないことだ。