(どうしよう!)


 エレン様が女性にキスをしてしまった! エレン様が女性にキスをしてしまった! っていうか、その女性ってわたしなんだけど! エレン様が女性にキスをしてしまった!
 どうしよう! 世界中のエレン様ファンから石を投げつけられても、決して文句は言えない状況だ。仮にうしろからナイフでグサッと刺されたとしても、わたしは甘んじて受け入れるだろう。だって、たとえ神様が許してくれても、わたしがわたし自身を許せそうにないんだもの。


「これからよろしくお願いしますね、ヴィヴィアン様」


 けれど、エレン様は涙が出るほど美しい笑みをたたえ、わたしのことを見つめている。あまりにも優しく、慈愛に満ちた表情だ。


(ああ、なんということなの……!)


 悔しい。あまりにも悔しく、嘆かわしいことだ。
 なんでかはわからないけど、エレン様は騙されていらっしゃる。完全に騙されていらっしゃる。わたしとの結婚が有益だって、誰かに思い込まされているんだ。一体どうして、誰が彼をこんなふうにしたのか――――理由はわからない。なんとかして原因を探らなければ。


(待っててください、エレン様! わたしが絶対、エレン様の目を覚ましてさしあげます……!)


 満面の笑みを浮かべるエレン様を前に、わたしはそう決意したのだった。