「そうですか。……でしたら『推しのたっての願いごと』ということで、俺との結婚を受け入れてもらえませんか?」


 熱っぽい声。普段よりも掠れていて、普段よりもちょっぴり低くて、それがとってもセクシーで、素敵で、背筋がゾクリと震えてしまう。


(びっくりした! 一瞬、意識が飛ぶかと思った!)


 エレン様フリークのわたしでも、さすがにこんな声は聞いたことがない。魔術師団の訓練中とか、カフェでくつろいでいらっしゃるときとか、これまでありとあらゆるエレン様の声を聞いていたけど、彼にはまだまだわたしの知らない一面があるらしい。完全なるリサーチ不足。こんなときだというのに、ファンとしてなんだか悔しいと思ってしまう。


「エレン様、あの……あの…………っ!」
「――――なんて、俺たちが婚約することは、既にたくさんの方が聞いていらっしゃいますから。今さらなかったことにするのは無理ですね! 今頃、夜会会場は俺たちのことで持ちきりでしょうし。ヴィヴィアン様もそう思いませんか?」


 すると、考えを巡らせまくっているわたしの耳元で、エレン様がボソリと呟く。わたしはハッと顔を上げた。