(嘘でしょう?)


 エレン様はわたしとの結婚を強要されていなかった。寧ろ自ら望んでいた――――そんな馬鹿な話、あるはずがない。ありえない。嘘だと言ってほしかった。


「エレン様、そんな……父やわたしに気を遣わなくていいんですよ? この結婚を断ったところで、あなたの出世にはなんら影響は出ませんし、絶対に不利益は生じさせません。なんなら未来の皇帝であるわたしが立身出世や爵位をお約束させていただきます。これから先も魔術師団への資金援助は惜しまないし、あなたに相応しい花嫁探しだってわたしが頑張りますし、それから、それから……」

「落ち着いてください、ヴィヴィアン様。俺は出世云々を気にするような男じゃありません」

「ハッ……! 本当だわ! わたしったらエレン様に対してなんて失礼なことを!」


 わたしは思わず目を見開く。
 エレン様は高潔なお方だ。地上に舞い降りた天使だ。権力に目がくらむような男性じゃない。にも関わらず、わたしったら気が動転して、とんでもないことを口走ってしまった。