(どうしよう! 近い、近い、近い、近すぎる!)


 推しがこんなに近くにいて、平常心でいられる人間なんていない。己の肌のコンディションとか、恐ろしいほどうるさい心臓の音とか、荒くなってる鼻息とか、いろんなことが気になって本題をついつい忘れそうになってしまう。わたしはゴクリと唾を飲んだ。


「ヴィヴィアン様……ヴィヴィアン様のほうこそ、大きな勘違いをなさっています」

「え? わたしが? 一体何を?」


 勘違い? そんなの、全く思い当たるフシがない。
 己を指さしつつ、わたしはそっと首を傾げる。


「ええ、そうです。俺は陛下に結婚を強要されてなんていません。寧ろ、自らあなたとの結婚を望んだのですから」

「え…………?」


 待って。
 待って、待って。
 ありえなさすぎて意味がわからない。エレン様の言葉がすんなりと頭に入ってこない。
 落ち着いて、エレン様の言葉を何度も何度も反芻する。


(エレン様は結婚を強要されていない。寧ろ、わたしとの結婚を望んでいた……って)


「えぇ⁉」


 ようやく理解が追いついた瞬間、わたしは思わず叫び声を上げた。