「――――ヴィヴィアン様、なにかございましたらなんなりと、このジーンにお申しつけください。僕が必ずあなたをお守りします」


 とそのとき、護衛騎士の一人が声をかけてきた。
 ジーンは8年前からわたしに仕えてくれている26歳の伯爵令息で、超がつくほど真面目な男性だ。わたしを守ることに命をかけているからエレン様を警戒しているらしい。同席する気満々っていう表情をしていた。


「ありがとうねジーン。だけど、ジーンは部屋の外で待機していて。エレン様とふたりきりで話したいことがあるの」

「しかしヴィヴィアン様」

「しかし、じゃない。下がっていなさい」


 ことはエレン様の名誉に関わることだもの。
 エレン様がどんな反応をするか、想像するだけでちょっと怖いし。ついでに言うと、お父様が勝手をしてごめんなさいって謝る気満々だから、帝国の威信にも関わってくる。皇女っていうのは人に頭を下げてはいけない生き物だから、たとえ相手が側近のジーンでも、わたしのそんな姿は見せるべきではない。


「あっ、ヨハナ! お茶をありがとう! あなたも部屋の外で待機していて」

「はい、ヴィヴィアン様」


 侍女のヨハナからお茶のカートを受け取って、わたしは部屋の扉をパタンと閉める。
 それから改めてエレン様へと向き直った。