「俺は今の――――ありのままのヴィヴィアン様が好きなんですけどね」


 エレン様がそう言って微笑む。外野がすかさずニマニマと笑う。恥ずかしさのあまり、わたしはギュッと目をつぶった。


「わかってるよ! わかってるけど! これはあくまでわたしの心の問題なの! 自分自身の気持ちの整理ができるようにっていうことだから、大目に見てよね!」


 いつかきっと『わたしこそがエレン様にふさわしい』って胸を張って言えるような女になってやるんだから。そのために努力したいっていうだけなんだから。
 エレン様はクスクス笑いながら、わたしの頭を優しく撫でた。


「さて、晴れて婚約者になれたことですし、これから城の外に出かけませんか?」

「お出かけ?」


 思わぬことに目を見開けば、エレン様はそっと目元を和らげた。


「ええ。ヴィヴィアン様と恋人らしいこと、したいなぁと思って」

「こ、恋人!」


 恋人って! 恋人って! なんという甘やかな響き。ただ婚約を結んだだけじゃないんだって。わたしたちが想い合っているんだって。たったひと言で、そんなことを表現されてしまった。
 しかも、それがエレン様の唇から発せられているという事実! わたしは驚くやら感激するやら。心臓が大パニックだ。