「――――あなたはヴィヴィアン様の側にいてあげてください」


 エレンが言う。僕は思わず息を呑んだ。


「エレン様……!」


 ヴィヴィアン様は既に事態に気づいていらっしゃるのだろう。とても不安そうな表情で、僕たちのことを見つめている。

 エレンはヴィヴィアン様に向かって微笑むと、すぐに闘技場から駆け出した。


(『優勝は……あなたでいいです』か)


 なるほど、言い得て妙だ。
 僕がどう感じるか、どう判断するか――――エレンにはお見通しなのだろう。


 僕はただ、悔しかっただけなんだ。

 エレンにヴィヴィアン様の推しの座を奪われたこと。ヴィヴィアン様にとって『一番強い男』が変わってしまったことが。


 ヴィヴィアン様がエレンを見つめる表情は、これまでとはちっとも違っている。僕にはわかる。もう何年もずっと、隣でヴィヴィアン様のことを見ていたのだから。


 優勝者として僕の名前がコールされる。闘技場が歓声に震える。
 天を仰ぎ、ヴィヴィアン様が大好きな魔法陣を見つめながら、僕はそっと頬を拭った。