闘技場全体を覆う大きな魔法陣。放ったのは、間違いなくエレンだろう。

 なぜ? 試合の最中にどうしてそんなものを? そう考えたとき、天空から無数の弓矢が皇族の二人に向かって降り注いでいることに気づいた。


「な……」


 どうして気づかなかったのだろう? 音もなく、風すらも遮られているから当然かも知れないが、ものすごい殺意だ。

 あんな攻撃をしかけてくるのは反帝政派の人間だろうか? みなが試合に夢中になり、皇族が狙いやすい場所にいるこのタイミングを狙ったのだろう。

 幸い、このことに気づいているものは少なく、観客たちは僕たちの勝負がどうなったのか、固唾をのんで見守っている。

 大切な大会を汚されたとなれば、帝国の名折れ。この大会を主催したヴィヴィアン様だって深く傷つくだろう。

 だからこそ、エレンは内密にこの件を処理しようとしたのだ。
 なにが起こっているのか言いもせず、僕の攻撃を避けもしなかった。今も頑なに口をつぐみ、僕に優勝を譲り、事態を解決に導こうとしている。