エレンは僕のことを見つめつつ、ニコリと穏やかに微笑んできた。余裕綽々という感じだ――――いけ好かない。腹が立つ。
 僕はこの試合に将来を賭けている。ものすごく真剣だし、微笑んでいるような余裕はない。


(この男は、本気でヴィヴィアン様と結婚したいと思っているのか?)


 その重責を、意味することを、本当にわかっているのだろうか? 大方ヴィヴィアン様に推されていることで有頂天になり、自分にも皇配が務まると思ってしまったのだろう。ヴィヴィアン様は褒め上手だからな。絶対そうに違いない。


 これまで僕は、ヴィヴィアン様の推し活を最大限支援してきた。当然だ。主人の望みを叶えるのが従者の務めであり、使命だからだ。
 しかし、結婚となると、これまでとは次元が違う。ことは帝国の――――ヴィヴィアン様の一大事である。


 そもそも、ヴィヴィアン様ご自身がエレンとの結婚を明確に拒否なさっているのだ。推しとの結婚は解釈違いだと、受け入れられないと言っていた。

 それなのに、あの男は何度も何度もしつこくヴィヴィアン様に結婚を迫っている。とても許せない行為だ。

 ――――だったら、僕がなんとかすべきだろう。ヴィヴィアン様の願いを叶えなければ! エレンとの結婚を阻止しなければ! それができるのは僕だけなのだから!