『ジーンは世界で一番強いのよね! わたしの護衛騎士だもんね!』


 それはまだ幼い頃のヴィヴィアン様の口癖だった。

 近衛騎士である僕に対して全幅の信頼を寄せ、どこにいくにも側に置いてくださり、いつも極上の笑顔を見せてくださる。
 けれど、その地位はいつの間にか別の誰かに――――彼女の推しに取って代わられていた。



 広大な闘技場。割れんばかりの大歓声。バトルフィールドの中央、目の前には男なのか女なのか問いたくなるような中性的な容姿の魔術師が立っている。この4年間で嫌というほど見飽きた顔だ。主人であるヴィヴィアン様にせがまれて、何度も何度もこの男を覗き見たし、ヴィヴィアン様の部屋にはこの男のどデカい絵が壁紙として鎮座している。


(ヴィヴィアン様はどうしてこんな男に熱を上げているんだ?)


 僕からすれば、エレンはどこにでもいるただの男だ。帝国の主たるヴィヴィアン様には似合わない。
 あんなにも愛情深く、情熱とバイタリティに満ち溢れたヴィヴィアン様に対し、この男はいつもどこか淡々としていて掴みどころがない。打っても打っても響かない鉄のようなつまらない男だ。

 大体、魔術師というのは生まれながらにして神様からハンデをもらっているズルい人間の集まりじゃないか。もしも僕に魔力があれば、もっと上手に使うことができる。今の数倍は強いに違いない。そうすれば、ヴィヴィアン様はエレンではなく僕を推してくれただろうに。