闘技場の中央、ライナス様と対峙しつつ、俺は小さく息をつく。

 貴賓席の前にはヴィヴィアン様の筆頭護衛騎士がひざまずき、観客たちが今もなお歓声を上げ続けている。彼は先ほど衆人環視の中、ヴィヴィアン様に求婚をしたばかりだった。


(なるほど、まさに番狂わせだな)


 俺ですら驚いたのだ。ヴィヴィアン様はさぞや困惑したことだろう――――いや、現在進行系で困惑していることだろう。

 表向きは皇女として、凛と受け答えをしていらっしゃるが、ヴィヴィアン様の性格上、戸惑わないはずがない。

 これが彼の護衛騎士の願いを叶える唯一無二の機会だったとわかっているが、なんとも複雑な気分だ。


「――――エレン様も今からヴィヴィアンのところに行きます? 結婚してくださいって――――公開プロポーズしといたほうがいいのでは?」


 そのとき、対戦相手のライナス様がそう尋ねてきた。どこかこの事態を面白がっているような瞳。さすがは皇族――――ヴィヴィアン様のいとこだ。